個人タクシー業者がインボイス制度で受けるダメージとは?

最近各メディアで「インボイス制度」の特集が組まれるケースが増えました。インボイス制度が始まるのは2023年の秋からですが、制度の影響を受ける業種・業態は多岐に渡ると予想されます。

特に、個人事業主の方は甚大な影響を受けると予想されますが、インボイス制度とはどのような制度なのか、正確に把握している方はそれほど多くはないかもしれません。

以前から、法人(企業)ではインボイス制度への登録が進んでいましたが、2023年に入ってからあわてて登録に踏み切った個人事業主が多いのも、制度がいまだにあまり周知されていないことを示唆するデータなのかもしれません(※)。

○インボイス制度とは?

○個人タクシー業者が受けるインボイス制度の影響とは?

この記事では、以上の観点からインボイス制度に迫ります。難しい用語はなるべく簡単に噛み砕いて解説しますので、個人タクシー業者(個人事業主)の方はぜひ参考にしてください。

※参照元:Yahooニュース「「インボイス制度」3月末の登録数は268万件 3月に個人事業主の登録が法人の2倍超に急増」https://news.yahoo.co.jp/articles/095582e341dd54b76de8052cef9316adc3dda23b

インボイス制度とは?

インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、一定の要件を満たす請求書(=適格請求書、インボイス)を受け取った者にのみ、消費税の仕入税額控除を認可する制度です。

インボイス制度は、事業取引における正確な消費税額と消費税率を把握するために整備されたシステムで、2023年10月から制度の本格運用が始まります。つまり今後は、新制度に適応した請求書(インボイス)がなければ、適切な税控除を受けられなくなるのです。

インボイス制度の概要

これまで売上高1,000万円以下の零細事業者には、商品の販売やサービスの提供により受け取った消費税を、納税する義務はありませんでした。いわゆる、「免税事業者」です。受け取った消費税は、収入になっていました(=益税)。

なぜ、零細事業者にはこのような優遇措置があったのか。

その理由は、零細事業者の多くは個人経営が多く、立場が弱いからです。零細事業者の多くは価格決定権を持たないため、法律によって手厚く保護されてきたとも言えるでしょう。

しかし、2023年10月以降、零細事業者に対する優遇措置は事実上撤廃されます。

インボイス制度によって、事業取引において売手側と買手側の両方に、以下のような義務が発生します。

○売手側:(取引相手から求められたときの)インボイスの交付

○買手側:(取引相手から交付を受けた)インボイスの保存

インボイスには、以下の7項目を記載しなければなりません。

①発行者氏名

②登録番号

③取引年月日

④取引内容

⑤対価の額と適用税率

⑥税率ごとに区分した消費税額等

⑦受領者氏名

従来までの項目に加えて、②・⑤・⑥を新たに請求書に記載する義務が生じます。登録番号を記載しなければならないので(②)、大前提として制度に自社を登録しなければなりません。

企業活動においては売手・買手を問わず、消費税の仕入税額控除は売り上げに直結する、重要な確定申告項目でしょう。インボイス制度に登録し適正なインボイスを発行しなければ、事業経費を経費として申告できなくなる(落とせなくなる)のです。

インボイスに登録していない業者は、顧客から取引を敬遠される可能性が高くなるでしょう。

個人タクシー業者とインボイス制度

インボイス制度はさまざまな業界の企業活動に、大きな影響を及ぼすと予測されます。

特に、零細事業者やフリーランスの個人事業主には、大きな影響を及ぼすでしょう。優遇措置(=益税)がなくなるだけでなく、制度への登録により課税(納税)義務まで発生するからです。

中でも個人経営のタクシー業者には、特に甚大な影響があるかもしれません。売手(個人タクシー)と買手(利用者)の間で、頻繁に領収書のやり取りがあるからです。制度に登録していない個人タクシーの領収書は、税控除の対象外になります。

「インボイスに登録していない業者のタクシー代は、経費で落とせないので控えましょう」

会社の方針として以上のような通達が出されるだろうと、容易に推測されます。

インボイス施行後は課税事業者への業態転換が必須

インボイスを発行できるのは、消費税の課税事業者のみです。個人タクシーの多くは年間売上1,000万円未満のはずですから、その多くは免税事業者でしょう。免税事業者には、インボイスの発行が許可されません。

一般会社員の個人タクシー離れが予想されます。

免税事業者のままでは乗客が減る可能性が高いので、適格請求書発行事業者として消費税の課税事業者へと、業態を変更する手続き(インボイス登録)をしなければなりません。「消費税課税事業者選択届出書」を提出して、課税事業者になる必要があります。

免税事業者のままだと乗客の減少が予想されますが、課税事業者へ転向しても課税(納税)分だけ負担が増します。いずれにせよ、個人タクシー業者はインボイス施行後に収入を減らす可能性が高まるのです。

インボイス制度の特例2パターン

○タクシー利用者自身が免税事業者の適用を受ける会社に所属している

○タクシー利用者自身が簡易課税制度(※)の適用を受ける会社に所属している

以上のように、インボイスを必要としない特例パターンも、あるにはあります。ただし、上記のパターンはいずれも、あまり一般的な想定ではないでしょう。

※簡易課税制度とは:仕入税額控除の計算に「みなし仕入率」を利用する方法で、実際に支払った消費税の金額を明確にする必要がないため、インボイスの発行が求められない

個人タクシー業者がインボイス施行後も生き残るには?

○インボイスに登録する

○インボイスを発行できる旨を車内やホームページに明記する

個人タクシー業者がインボイス施行後も生き残るためには、最低でも以上2点が求められるでしょう。客足を遠のかせない努力が求められます。ただし、仮に上記を実施したとしても、それだけでは収入の減少を避けるのは難しいかもしれません。

個人タクシー業者がインボイス制度で受けるダメージ(益税の損失と課税義務の発生)は、極めて甚大でしょう。

個人タクシー業者には、今まで以上の企業努力や新しい生き残り戦略などが、シビアに求められるはずです。

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